【開催報告】勉強会「性同一性障害特例法 ~ いま何が問題なのか~」を開催しました

2025年09月27日

2025年9月15日、Tネット主催の勉強会 「性同一性障害特例法 ~ いま何が問題なのか ~」 を開催し、無事に終了いたしました。ご参加いただいた皆さま、また関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。

当日は対面で28名、オンライン含めた申し込みは222名と、大勢の方にご参加いただきました。

勉強会では、まず、Tネット共同代表の野宮亜紀より、性同一性障害特例法の制定当時の経験をもとに、特例法の制定に至る経緯や意義について説明がありました。

1969年の「ブルーボーイ事件」で医師が優生保護法(現母体保護法)違反で有罪になったこと、1990年代になって、趣味・嗜好のように扱われていたトランスジェンダーの問題が医療や人権の問題として認識されるようになったこと、母体保護法をクリアすることを主眼として「診断と治療のガイドライン」が制定されたことなどが、2003年の性同一性障害特例法の制定につながる動きとして紹介されました。

性同一性障害特例法は、性別を移行して暮らす当事者が、生活の実態と戸籍などの性別記載の不一致によって本人かどうかを疑われたり差別にさらされたりすることを解消し、ほかの人々と同じように生活を送ることを可能にしました。一方で、法律の要件を満たす人と、実際に変更を必要とする人との間に不一致があることが問題となっています。

当日のお話では、家族・友人との関係における性自認の承認や、実際の生活場面における男女別施設の利用は、戸籍の性別記載変更と直接関係するものではないこと、それにも関わらず、「子の福祉」や「公衆浴場の利用」を根拠として過大な要件が設定されていることについて説明がなされました。

次に、憲法学者の春山習さんから、生殖能力を失っていることを定めた「4号要件」について、これを違憲とした2023年の最高裁決定の詳細な解説がありました。

最高裁は、4号要件による「身体への侵襲を受けない自由」の制約は、現時点において必要かつ合理的なものとは言えず、これを憲法13条に違反するものと判断しました。一方で、春山さんは、身体への侵襲を受けない自由という考え方だけでは本質を捉えきれないとして、従来の「医療モデル」を改めた「人権モデル」を考えるべきではないかと提唱しました。

この人権モデルでは、性自認に基づいて社会生活を送ることは、憲法13条に基づく人権の枠組みの中で、普遍的に保障されるべき権利と捉えられます。従来の医学的知見が更新される中で、法律の土台から再考する必要があるのではないか、とのお話でした。

参加者からは、

「春山さんのお話が非常にわかりやすかった。法律の素人にもわかるよう、丁寧な言葉を選んでくれていたように感じるし、その一方で詳しい方も満足できる内容だった。大学で授業を受けたいと思うほどです。」

「母体(優性)保護法の自主的な不妊手術を制限する要件が(そしてそれ以外の保護法の制限が)、今の世の中で守っているものは何だろうなと改めて考えましたが、たぶん何もなく誰にとっても迷惑でしかないなと思いました」

「トランスジェンダー問題は、医療や法律、文化など様々な側面から考えていく必要があり、複雑だなぁと思いますが、こういった勉強会で、順を追って説明して下さると整理されるので助かります。法律を掘り下げて触れる機会がなかったので、とても勉強になりました」

などの感想をいただきました。

私たちTネットは、性の多様性に関する学びと対話の場を今後も継続して提供してまいります。今回の勉強会が、参加者の皆さんにとって学びと気づきのある時間となっていれば幸いです。

今後ともTネットをどうぞよろしくお願いいたします。