声明
2025年1月20日付の米国大統領令に関する声明
2025年01月23日
2025年1月20日付の米国大統領令に関する声明
2025年1月23日
Tネット
2025年1月20日、ドナルド・トランプ米大統領は、性別の認識に関する連邦政府の方針を変更する、新たな大統領令に署名しました。私たちTネットはこれを、トランスジェンダーの人びとの人権とその生活を深刻に脅かす危険なものであると考えます。そして、この大統領令が、米国に暮らすトランスジェンダーだけでなく、LGBTQ+の人びと全体、そして日本を含む国際社会に深刻な影響を与えうることを強く憂慮します。
この大統領令は、連邦政府の発行するパスポートやビザ、また連邦政府関係機関で働く人の人事登録における性別の登録を、全て「生物学的な性別(biological sex)」に合わせるよう求めています。そして、その場合のsexとは、その人が「受精の時点」で精子を作る方に属する人か、卵子を作る方に属する人かで定義されるとしています(注1)。
このような定義を性別の登録において強制すれば、すでに社会生活上の性別を移行して暮らしているトランスジェンダーの人びとのプライバシーが暴かれることになります。これらの人々は、社会的な性別のあり方と性別の登録が一致した状態から矛盾した状態へと変えられることになり、就労や渡航において偏見にさらされ、トラブルに巻き込まれることになります。
この大統領令は、トイレなどの施設利用に関しても混乱を生み出します。例えば、すでに男性として生活し、周囲とも男性として人間関係を構築しているトランスジェンダーの男性は、この大統領令によって、連邦政府の施設を利用する際に女性用トイレを使用することを強制され、また、収監される場合には女子刑務所に収監されることとなります。トランスジェンダーの女性も、同様の矛盾を強いられます。
本来は、当事者一人ひとりの状況や周囲との関係に即した運用をすることで、混乱を防止することが可能です。しかし「精子か卵子か」といった規則を適用すれば、現場に無用な混乱が生じるばかりでなく、暴力を誘発し安全を損ねる危険があります。
共和党とその支持層は、女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の縮減を進めてきました。この大統領令もまた、思想的背景に基づいて性別の規範を強制しようとする一連の動きに連なるもので、現実に「女性を守る」ようなものではありません(注2)。その意図は、社会にあえて混乱を招き、トランスジェンダーの人々の社会生活が困難となるよう仕向けることで公的社会から排除していくこと、それによって過激な中核的支持層の歓心を得ることにあると考えられます。
とりわけ、トランスジェンダーの子どもや若者が教育現場で受ける影響は、見過ごすことができません。今回の大統領令では、学校において、トランスジェンダーだけでなく、同性愛者なども含めたLGBTQ+の児童・生徒を保護してきた多くの施策を撤回するよう要求しています。これらの子どもたちにとって、学校は、いじめやハラスメント、構造的な差別に直面しやすい場であり、安全とは言えない環境です。弱い立場に置かれた子どもたちから、安心して学べる場を奪うことは、未来の可能性を大きく狭めることにつながります。
カミングアウトをする人も少なく実態が知られていないトランスジェンダーを標的とし、人々の敵意を煽ることで支持を得ようとする姿勢は、とうてい容認できるものではありません。特に、米国の大統領が過激な姿勢を示すことで、日本国内においても見られる差別的・反社会的言説や、社会の分断が加速されることを私たちは懸念します。
また、社会のリーダーであるべき政治家が率先して、出身地、人種、民族、性別、性的指向・性自認などの属性や経験に基づく差別や排除を促すことに強く抗議します。
以上
注1:
「出生の時点」ではなく「受精の時点」という記述は一般的に見て奇異であり、一部には、受精卵を人と見なして妊娠中絶の自己決定を否定する考え方を反映しているとの見方もあります。
注2:
大統領令は、この方針変更によって「女性を守る」と謳っています。しかし、出生上の性の区分にしたがった施設利用を強制すれば、多くのトランスジェンダーが(女性も男性も)見た目と逆の施設を使うこととなり、混乱が増大します。シスジェンダーであっても、男性的な外見や体格をもつ女性は疑いの目を向けられ、暴力などの被害に会いやすくなることが考えられます。また、大統領令の定義によればトランスジェンダーの男性は「女性」に含まれますが、そのような人が「守る」対象に含まれていないことは明らかです。さらに、社会的な脆弱性ではなく生殖能力を根拠として女性を保護するという考え方は、女性を「産む装置」とみなす社会への逆行につながるという点に注意が必要です。
本件についての問い合わせ先
メール : transgender.network.jp@gmail.com(事務局メールアドレス)
Webサイトhttps://tnet-japan.com/
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