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仕事編:性別移行したことで人目に付かない部署に異動を命じられたら
2025年01月23日
2018年のGID(性同一性障害)学会で販売されたGID全国交流会誌2018「特集号 トランスジェンダー としごと」の制作に関わった方および弁護士の許可を得て転載します。
性別移行を始めたり自認する性別の恰好をして出勤したりしたところ、人目に付かない部署に異動させられそうです
<回答>弁護士宮井麻由子
A 事業主と話し合ってみるのもよいと思います。
1事業主との約束を確認しましょう
採用のときなどに、事業主と社員との間で職種や部署を限定する約束をしている場合、よほど特殊な職種や部署でなければ、社員が性別移行を始めたり、戸籍上の性別・生物学的な性別とは異なる性別の恰好で出勤したりしても、事業主はこの約束を守る必要があります。就業規則や労働協約に「配置転換を命じることがある。この場合には拒むことはできない」などと書かれていても、社員との個別の約束の方が優先されるので、事業主は約束どおりにする必要があります。異動を命じられてしまっても、事業主に、職種や部署を限定する約束があったことを伝えて、撤回してもらうことができるはずです。事業主もトランスジェンダーに慣れていなくて心配しすぎているだけということも結構あるようですので、可能であればじっくり話し合ってみるのも良いと思います。
2事業主は社員に、どんな異動でもさせてよいわけではありません
職種や部署を限定する約束がない場合でも、事業主は社員に、どんな異動でもさせてよいわけではありません。事業主のほうでは、取引先や顧客、他の社員が「違和感や嫌悪感」を抱くから、人目に付かないところに居てもらう必要がある、と言いたいのかもしれません。しかし、このような「違和感や嫌悪感」は、一過性のものであり、性の多様性への理解が進めば、次第に消えていくのかもしれません。(日本の裁判でも社内の「違和感や嫌悪感」はGIDへの理解を図れば時とともに緩和されていく可能性があるということを述べたものがあります。今から15年以上も前の裁判です。)
トランスジェンダーの社員を外見の変化だけを理由に人目に付かない場所で働かせるという対応は、自尊心を傷つけたり社内での孤立感を与えたりして、その社員にとって、毎日の出勤を精神的にとても辛いものにしてしまうことがあります。そのように考えると、外見の変化だけを理由に人目に付かない部署へ異動させるような配置転換は、双方のメリット・デメリットがアンバランスで、法律的にかなり問題があるように思います。
3嫌がらせ目的の場合には従う必要はありません
いずれのケースでも、異動させる目的が嫌がらせや、退職に追い込むことである場合、そんな辞令は無効ですから従う必要はありません。ただし、そんな不誠実なことをしてくる事業主であれば、慎重に対応した方が良いでしょうから、弁護士などの専門家に相談することをすすめます。
制作・著作:GID全国交流会2018 有志実行委員会