声明
【声明】非婚要件を是認した大阪高裁の決定について
2025年11月13日
2025年9月25日、大阪高等裁判所は、婚姻しているトランスジェンダー女性による法的な性別変更の申立てを棄却しました。Tネットはこの決定に抗議するとともに、婚姻しているトランスジェンダーの人びとについて、法的な性別変更の道が開かれるよう求めます。
性同一性障害特例法は、法的な性別変更を認める要件の1つとして「現に婚姻していないこと」を定めています(以下「非婚要件」)。
しかし、戸籍の登録上は「異性婚」の夫婦であって、その一方が性別を移行しているというカップルは少なからずいます。そうした状況にある当事者は、法的な性別変更のために離婚するか、婚姻を続けるために性別変更を諦めるかという、二者択一を強いられています。
今回の決定において、大阪高裁は、非婚要件は異性間の婚姻のみを認めている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない等の配慮に基づき設けられたものであり、憲法に違反するものとはいえないと判断して、婚姻している当事者の法的な性別変更の申し立てを棄却しました。
この決定には、以下のような問題が含まれます。
・現時点で、全国5つの高裁が、同性間の婚姻を認めない現行の婚姻秩序を違憲と判断しています。今回の決定はこの点については検討を行わず、現行の婚姻秩序を維持することを前提に申立てを棄却しました。
・今回の決定では、法的な性別変更をした人が変更後の性で異性と婚姻することは可能であるため、婚姻の自由が制約されているとは言えず、したがって、この非婚要件と、2020年に最高裁で違憲と判断された生殖不能要件とでは、権利などの侵害の程度が異なると判断しています。しかし、この論理には、すでに婚姻して家族関係にある二人がその解消を迫られるという苦痛や困難が考慮されていません。
これらの点から、Tネットは、今回の決定を不当なものと考えます。性的少数者が家族との絆を育み維持することを認めない現行の婚姻秩序の妥当性について判断を避け、当事者の権利よりも、現行秩序のもとでの非婚要件の合理性を優先する判断がなされたことは、遺憾と言わざるを得ません。
非婚要件のほかにも、性同一性障害特例法には「未成年の子がいない」ということを求める要件もあり、トランスジェンダーの人びとが家族を営むことに対して制約を課し続けています。
Tネットは、それらの要件の一刻も早い撤廃を求めるとともに、戸籍上の同性であっても婚姻が認められるような、法制度の整備を求めます。加えて、これらの要件を理由として法的な性別変更を阻まれてきた当事者がより広く救済されるよう、全国の家庭裁判所において、柔軟かつ踏み込んだ判断が下されることを求めます。(参考【声明】法的な性別変更について)
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Tネットについて
Tネットは、トランスジェンダーに関する情報発信に取り組んできた当事者ら有志によるネットワークで、2024年8月に発足しました。代表は、木本奏太、野宮亜紀の2名が共同で務めています。今後、トランスジェンダーを取り巻く社会環境の変化を踏まえて、情報発信や提言、イベント、学習会、メディア向けセミナーの開催などを行っていく予定です。また、Webサイトでの情報発信についても、今後充実させていく予定です。
木本奏太<プロフィール> YouTuber/映像クリエイター。大阪芸術大学映像学科卒。YouTubeチャンネル「かなたいむ。」にて活動。トランスジェンダー男性、25歳で性別適合手術をし、現在は戸籍上も男性として生活。「映像を通して誰かの何かのきっかけに」と、SNSでLGBTQ+、耳の聞こえない両親との生活、ありのままの日常などを発信。
野宮亜紀<プロフィール> 1998年からトランスジェンダーの自助・支援グループに運営メンバーとして携わり、2000年から東京レズビアン&ゲイパレードの実行委員、その後、パレードの主催団体であった東京プライドの理事を務める。2005年から大学で非常勤講師としてジェンダー、セクシュアリティについての講義を担当。
Webサイト ※仮開設中です。今後、情報発信を充実させていく予定です。