【声明】法的な性別変更について

声明

2024年09月09日

声明

2024年9月8日
Tネット

今月4日、東日本の家庭裁判所(以下「A家裁」)において、婚姻しているトランスジェンダーのご夫婦双方の戸籍の性別記載の変更が、同時に認められました。

(朝日新聞「トランスジェンダーの夫婦、結婚したまま性別変更 家裁が異例の判断」)
https://www.asahi.com/sp/articles/ASS9542JSS95UTIL029M.html

これにより、ご夫婦の双方が、ご自身の生活とアイデンティティに則した法的な性別の登録を得られることとなりました。Tネットとして、この決定を歓迎いたします。

トランスジェンダーの人々の法律上の性別の取り扱いについて規定する「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下「特例法」)は、その3条1項2において、申立人が「現に婚姻していないこと」を求めています。

今回のケースにおいて、A家裁はこの要件を申立人夫婦には適用せず、柔軟な判断を下しました。私たちの知る限りでは、現に婚姻している状態で戸籍の性別記載の変更が認められた初のケースとなります。

この特例法の規定は「非婚要件」とも呼ばれ、戸籍上の性別変更によって、法的な同性婚状態が出現することを防ぐために設けられたとされています。

しかし、特例法制定後すぐに刊行された『【解説】性同一性障害者性別取扱特例法』(南野知恵子監修;2004年)において、石原明氏(神戸学院大学法学部教授(当時))が早くも指摘している通り、「婚姻を継続するかどうかは配偶者同士で決めるべき」であり、また特例法は第4条2項において、性別の取り扱いの変更は「変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない」と規定しています。たとえカップルの片方のみの戸籍変更であるとしても、戸籍上の性別変更にあたって離婚を求めることには、妥当性はありません。

今回の決定においてA家裁は、申立人2人の事件を併合したうえで、両名について「同時に性別変更審判がなされれば、同時にその効力が発生し、同性婚の状態が生じる可能性はないといえ、現在の婚姻秩序に混乱を生じさせることはない」として同時に戸籍変更を認めました。

A家裁が「現に婚姻していないこと」とする特例法の条文を機械的に適用せず、申立人らの状況を鑑みた柔軟な判断を下したことは評価に値します。しかしA家裁は、同性婚の状態が生じることによる婚姻秩序の「混乱」を防ぐという非婚要件の根拠が、今回のケースには欠けていると判断したに留まり、非婚要件そのものが持つ問題にはなんら踏み込んでいません。

今回の申立人らのように、性別に関して生活上の実態と戸籍の記載が双方で逆転している夫婦や、法的には「異性婚」の状態にあるが、うち片方がトランスジェンダーであるため実態としては「男性と男性」もしくは「女性と女性」の同性婚状態にあるといったカップルは、以前から存在しています。

いずれも、特例法に非婚要件があることによって、夫婦ないしカップルの生活上の現実と法律(戸籍)上の登録が乖離し、結果として「混乱」を招く事態になっていると言えます。

現在、京都家庭裁判所において、婚姻中のトランスジェンダー女性が戸籍変更の申立てを行い、審理中であることが知られています。申立人は、今後の裁判で「非婚要件」の違憲性を問うていく所存とのことです。全国の裁判所において、当事者の立場に寄り添い、かつ当事者が置かれた現実に即して、柔軟な判断が行われるよう望みます。

(京都家裁への申立については「既婚を理由に法的性別取扱い変更を認めないのは違憲!「なんでうちらが離婚せなあかんの?」裁判」を参照してください)
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000139

Tネットでは今後も、トランスジェンダーの人々が生きやすい社会の実現を目指して、情報発信や声明の発出を続けていきます。

(なお本声明は、今回、法的な性別変更が認められたご本人たちからの情報提供と同意のもと発出されています)

Tネットは、トランスジェンダーに関する情報発信に取り組んできた当事者ら有志によるネットワークで、2024年8月に発足しました。代表は、木本奏太、野宮亜紀の2名が共同で務めています。今後、トランスジェンダーを取り巻く社会環境の変化を踏まえて、情報発信や提言、イベント、学習会、メディア向けセミナーの開催などを行っていく予定です。また、Webサイトでの情報発信についても、今後充実させていく予定です。

木本奏太

<プロフィール> YouTuber/映像クリエイター。大阪芸術大学映像学科卒。YouTubeチャンネル「かなたいむ。」にて活動。トランスジェンダー男性、25歳で性別適合手術をし、現在は戸籍上も男性として生活。「映像を通して誰かの何かのきっかけに」と、SNSでLGBTQ+、耳の聞こえない両親との生活、ありのままの日常などを発信。

野宮亜紀

<プロフィール> 1998年からトランスジェンダーの自助・支援グループに運営メンバーとして携わり、2000年から東京レズビアン&ゲイパレードの実行委員、その後、パレードの主催団体であった東京プライドの理事を務める。2005年から大学で非常勤講師としてジェンダー、セクシュアリティについての講義を担当。

Webサイト
※仮開設中です。今後、情報発信を充実させていく予定です。
https://tnet-japan.com